僕の探索魔法に引っかかった変な反応。
その正体を調べるために、僕たちはその場所に行くことにしたんだ。
でもね、お父さんはその前に言っておかないとダメな事があるって言うんだよ。
「ルディーン。これから見に行った先にいたのがもし幻獣だった場合、けして気付かれないようにしなければいけない」
「うん。解ってるよ。だってやっつけられないもんね」
「ああ、そうだ。だが、もしその幻獣に俺たちが見つかった時は」
お父さんはそこまで言うと、僕の前にしゃがんで目を見ながらこう言ったんだ。
「俺とシーラ。母さんの二人で幻獣を抑えるから、お前は一人でイーノックカウに逃げるんだ」
僕、一瞬何を言われたのか解んなかったんだよね。
でも、ちょっとしたらその言葉の意味が解って……。
「やだよ! 幻獣ってやっつけられないんでしょ? だったらお父さんとお母さんも一緒に逃げようよ」
「そう言うわけにはいかない。相手がどんな奴か解らないから、逃げ切れるかどうか解らんだろう?」
「ハンスの言う通りよ。それにね、臭いや気配を追う事の出来る幻獣だった場合、逃げ切ったように見えても、私たちを追ってイーノックカウに来てしまうかもしれないでしょ?」
お父さんとお母さんは、もしその幻獣がイーノックカウまで来ちゃったら大変な事になっちゃうでしょ? って言うんだ。
それにね、もしイーノックカウまで追っかけてこないとしても、やっぱり逃げるわけにはいかないんだって。
「ルディーンが言う通りなら、そいつはブラックボア程度の強さがあるんだろう? だったら、もしそんなのがこの森の入口付近まで来てしまったらどうなる? この街の冒険者の中には、下手すると一角ウサギにも勝てないような奴がいるんだぞ」
お父さんはね、もしそんなのが森の入口の方まで来ちゃったら、ポイズンフロッグが出た時よりももっと大変な事になっちゃうって言うんだ。
「だからだ。もし見つかってしまったからと言っても、街の方に逃げるわけにはいかない。では奥へ行けばいいのかと言えばだ、この辺りの地理に詳しくない俺たちでは森の中で迷って帰れなくなるのがおちだ。だから、やはりそっちに逃げるわけにはいかないんだ」
「でもでも、その幻獣ってのはやっつけられないんでしょ? お父さんとお母さんはどうするの? やっぱり僕だけで逃げるのなんてヤダよ」
もしかしたらお父さんとお母さんが死んじゃうかもしれない。
「ぐすっ……ふえ〜ん!」
そう思ったら僕、涙が止まんなくなっちゃったんだ。
でもね、そんな僕をお母さんはぎゅってしてくれて、
「大丈夫よ、ルディーン。私もハンスも死ぬつもりなんて全くないんだから」
僕の頭をなでながらそう言ってくれたんだ。
「ぐすっ、本当?」
「ええ。だって、私たちが助かるためにはルディーンに逃げてもらうのが一番だと思うもの」
にっこりしながら、僕にそう言うお母さん。
そしてお父さんも、お母さんとおんなじように僕を逃がすのが一番助かる確率が高いって思ってるんだって。
「ルディーン。お前はイーノックカウにある、錬金術ギルドであった金持ちの爺さんの家に一瞬で帰る事ができるんだろ? だったらこの場は俺たちに任せて、あの爺さんに助けを求めるのが一番だとは思わないか?」
「そうよ。ルディーンがすぐに帰って幻獣が出たことを知らせてくれたら、領主様から魔法の武器が借りられるもの。それさえあれば、ハンスがそんな幻獣に負けるはずないでしょ?」
そっか! ジャンプの魔法を使えば、すぐにロルフさんちに行けるもんね。
そしたらストールさんに頼んで領主様に魔法の剣を貸してって言いに行ってもらえば、その件で幻獣をやっつけられるね。
あっ、でも。
「お父さん。僕、イーノックカウに帰るのは一瞬だけど、帰ってくるのにはすっごく時間がかかっちゃうよ?」
帰る時は魔法だけど、ここまでは歩いてこないとダメなんだよね。
だからすぐには来れないよ? って言ったんだけど、お父さんは問題ないって言うんだ。
「まぁ、そうだろうな。だが心配するな。これがブラウンボア並みに強いって言うのならともかく、ブラックボア程度なんだろ? 俺とシーラの二人なら、二日くらいなら持たせてみせるぞ」
「ハンス。多分、魔法の武器を借りた時場合はギルドマスターがそれを持ってルディーンと一緒に来るでしょうから、この印の位置まで幻獣を誘導した方がいいんじゃない?」
「確かにな。ここなら川沿いで迷う事もないし、ポイズンフロッグを狩りながらでも半日かからなかったんだ。もし領主様から武器を借りるのに手間取ったとしても、明日の朝には届くだろう」
それどころか、今変なのがいるとこより、もっと解りやすいとこまで連れてきちゃおうなんて言ってるんだよね。
そんなお父さんたちを見てたら、僕もきっと大丈夫だって思えてきたんだ。
「それにだなぁ。ここまで話しはしたが、今から行った先にいるのが幻獣じゃなく魔獣だった場合は狩ればいい。それに幻獣だったとしても、見つからなければやはり何の問題も無いんだ」
「そうよ、ルディーン。今話し合ってたのは、あくまで最悪の事態のお話。だから絶対にルディーンが一人で逃げなくちゃいけない訳じゃないのよ」
「そっか。僕、この先には絶対幻獣がいるんだって思っちゃってた」
そう言えばお父さんも最初に、もし幻獣がいたら絶対見つかっちゃだめだよって言ってたよね。
見つかったら僕一人で逃げなくちゃだめだけど、見つかんなかったら3人で帰ってきて領主様に武器を貸してって言いに行けばいいんだもん。
そしたらお父さんもお母さんも危ない目に合わなくていいんだから、絶対に見つかんないようにしないと!
「お父さんもお母さんも、絶対見つかっちゃだめだよ」
「あら。うふふっ、この子ったら」
「ああ。俺たちは絶対に見つからないようにするから、ルディーンも気を付けるんだぞ」
「うん! 僕、かくれんぼはすっごくじょうずなんだよ!」
お父さんたちと違って僕はまだちっちゃいから、ちょっと背の高い草の後ろでしゃがんでたらもう見えなくなっちゃうもん。
ちゃんと風下から近付けば、絶対見つからない自信があるんだよね。
どんなのがいたって、絶対見つかったりしないぞ!
僕は両手をぎゅって握りながら、ふんすと気合を入れたんだ。
ルディーン君はよく忘れてしまいますが、ジャンプの魔法はこういう時に事一番役に立つんですよね。
それに倒すことはできないかもしれませんが、ハンスお父さんもシーラお母さんも、ブラックボアの上位種であるブラウンボアを狩るようなパーティーの一員ですから、ただ耐えるだけならそれほど難しくはありません。
問題は長丁場になることくらいでしょうけど、それも実を言うと、レベルが上がると持久力も上がるので、作中にハンスお父さんが言っている通り、二日くらいなら平気で戦い続けられたりします。
……なんと言うか、こうして文字にしてみると、カールフェルト一家がいるせいで大したことない話に見えてきますね。
本来なら、もしイーノックカウ近くの森にこんなのが出たら、それこそとんでもない災厄のはずなのにw